この記事に書いてある事
  • FBIの捜査 2011年から始まっていた
  • スポーツ推薦枠を悪用した女優
  • 実際にアスリートはどれぐらい成績に”下駄”をはかせてもらえるのか?

アメリカの裏口入学スキャンダル。FBIの捜査名は”Operation Varsity Blues”。これは1999年に公開された映画のタイトルです。

テキサス州の小さな高校でケガをしたフットボールチームのクオーターバックに代わり主人公である補欠のクオーターバックが父親、コーチ、コミュニティー、全校生のプレッシャーを背負ってプレー。

彼は小さな町の生活に嫌気がさし、勉強でアイビーリグの一つであるブラウン大学を目指していています。フットボールはなんとなくやっている程度。

かたや友達であるケガをしたクオーターバック(主人公のガールフレンドの兄)はフロリダ州立大学のアスリート枠で奨学金を受けることが決まっていたのに、膝のケガが全治1年半と診断されスポーツ推薦を取り消される、という物語です。

映画の中にアイビーリーグ、スポーツ推薦という今回事件になった要素が入っていることからこの名前が付いたのでは、といわれています。

Varsity Blues
Source:http://www.dvd-covers.org/

FBIの捜査 2011年から始まっていた

FBIは2011年から捜査を始め、2019年になってやっと逮捕者を出しました。なぜ捜査から数年してではなく、今なのか。

たぶん、ですが一人二人の逮捕者ではそう話題にならず世間に忘れ去られてしまい、今後同様の事件が起こる可能性もあります。ある程度の規模になり有名な芸能人や大物の財界人がかかわるようになったところで公表すると、世間へどれだけのインパクトがあるのか分かっていたのではないでしょうか?

逮捕された二人の女優の娘はそれぞれ現在大学に在学中。FBIはまるでこの二人が事件に関係するのを待っていたかのようです。この事件にかかわっている家族は2011~2018年の7年間で750家族にものぼるので、今後も逮捕者が増える可能性があります(今のところ逮捕されたのは50人)。

別記事で紹介した「レガシー」、卒業生の子供が入試の際に優先される合法な制度があるのになぜそれを利用しないで裏口入学、なのでしょうか?逮捕された一人の女優ロリ・ロックリン(『フルハウス』のレベッカ役)の場合は大学は出ていないようですが、もう一人のフェリシティ・ハフマン(『デスパレートな妻たち』のリネット役)は裕福な家庭の出身で名門の私立ニューヨーク大学を出ています。

ただしレガシーがあるからといって必ず合格するわけではなく、合格率を上げるに役立つ、ということはそもそも子供がある程度の成績と共通テストの点数を出していないといけないということです。フェリシティ・ハフマンの場合、娘のSAT(共通テストの一つ)の点数の改ざんにお金を払った罪で逮捕されています。

事件の首謀者ウイリアム・シンガーが工作した会場でテストを受けた結果、テスト結果が改ざんされ以前より約400ポイント上がり、1420になったということです。共通テストはレガシーがあってもなくてもアメリカでは大学入学に必要なので、避けて通ることはできません。

ホフマンの娘のSATで1420(満点は1600)というのは上位5%に当たる点数で、かなりの高得点といっていいでしょう。アイビーリーグや上位の州立大学に入るのには少し足りない点数ではあります。それでも例えばハフマンの出身校ニューヨーク大学にレガシーで合格するには十分な点数です(ハフマンの娘の在学する大学名は出回っていないので、あくまでも私の想像で例え、です)。

もともとのSATが1020では入れる有名校、伝統校はありません。一般家庭ならこのぐらいの点数しか取れないなら、コミュニティーカレッジ(短大、高校卒業資格があればだれでも入学可能)に行くだろう、というぐらいの低い得点です。

ただし、アメリカのある程度裕福な家庭の子がコミュニティーカレッジに行くことはまれ。プライドが許さないのでしょう。一般的なイメージとしてコミュニティーカレッジは貧しい家庭の子が行くか、高校で成績が悪かった子が行くところだからです。

我が家もコミュニティーカレッジは考えたことがなかったのに、一人合格した大学を全部断ってコミュニティーカレッジに行きました。もっと上を目指すという高尚な理由ではなく、単にガールフレンドが行くから、という怒り心頭の理由でしたが、、、結果一般的なイメージとは違った経験をし、今では選択肢としてあってもいいと思うぐらいになったのは自分でも驚きです(コミュニティーカレッジについてはまた別記事で)。

スポーツ推薦枠を悪用した女優

もう一人の女優ロリ・ロックリンの場合はスポーツ推薦枠を悪用した、というのが逮捕理由です。娘がやってもいなかったスポーツの結果を願書に書き、写真をねつ造する、という手の込みよう。入学した南カリフォルニア大学は昔はお金持ちでそこそこの頭の子が行く学校だったのが、最近はどんどんレベルが上がっていき、今では合格率13%、学校の成績はオールA(日本の5に相当)、共通テストの点数も上位5%ぐらいでないと入れません。

ロリ・ロックリンとその娘
Source:https://www.lamag.com/

南カリフォルニア大学は名門校で裕福な家庭の子がほとんどなのに、コンプトンというものすごく治安の悪い市のすぐ近くにあるということでも有名です。日本人のブログで「車で通るのも避けましょう」と書いているぐらいの地域。この立地条件のせいか日本ではあまり知名度はありませんが、アメリカでは知らない人はほぼいないでしょう。

名門校にスポーツ推薦で入る場合は成績やテストの点数にかなり下駄をはかせてもらえるので、ロックリンの成績や共通テストの成績はあまりよくなかったのだと想像できます。

アメリカの大学がスポーツ推薦に熱心なのは、特に人気スポーツは全米で試合が中継されたり、学校の宣伝にもってこいだからです。試合のチケットも高額で売り学校の収入にもなります。

アスリート枠はハーバードやスタンフォードなどの超難関大学でもあるところが日本と大きく違うところです。東大にスポーツ推薦があったら??想像するだけですごいですよね。

アスリート推薦枠については、要求される具体的な成績や共通テストの点数などを聞いたこともありませんでした。有名大学にスポーツで行く子というのはそうそういるものでもなく、しかもどういう成績や共通テストの点数を要求されているのか、を公言する生徒はそうそういません。

実際にアスリートはどれぐらい成績に”下駄”をはかせてもらえるのか?

ところがたまたま昨年、次男の高校のスポーツチームの子がこの枠に相当する才能を持っていて、実際に一流と言われる大学に入学しています。具体的な大学名を書くとクレームが出たり、また同じ大学でもスポーツにより、また個々の才能により要求されるものが違うかもしれないので、あくまで参考までにしてください。

この子はアイビーリーグの一校からスポーツ推薦枠へのオファーがありました。親の一人が同校出身で「レガシー」もあることから、成績とテストの点数さえあれば入学確実、だったそうです。ただ、このオファーは大学3年生の時だったので、既に行くことにほぼ決めていた大学から要求されていた成績と共通テストの点数だけを考えていたので、基準に達しませんでした。

アイビーリーグのSATとACT
Source:https://www.quora.com/

その当時行くことに決めていて実際に今在学している大学は、州立のトップ校の一つで世界大学ランキングでも上位に入ります。要求されていたのはGPA(成績を数値化するもの)で3.5(大学レベルのクラスではなくすべて普通クラスを履修でよい)、ACTで25、SATで1200というものでした(注:満点はACT 36、SAT 1600)。

在米の方でしたらこれはかなり簡単にクリアーできる数値だとわかるでしょう。アスリート枠ではない普通の生徒の合格者の平均はGPAが4.45、ACTが33、SATが1405です。この数値を見ると明らかにアスリート枠入ると成績や共通テストの点数を甘く見てもらえるかわかります。

オファーのあったアイビーリーグはGPAが4.0、ACTが30、SATが1370を要求されたそうです。州立のトップ校よりはかなり高い数値ですが、完璧な成績と共通テストの点数があっても入れないのがアイビーリーグ。勉強でハーバードを目指している人にはあまり納得がいかない数字かもしれません。

それなのに上位の大学も含めてアスリートのリクリートが盛んなのはなぜなのでしょう?アメリカは日本に比べて何倍も大きく、ある程度の大学でも州の外には知られていないこともあります。そういう学校のスポーツチームが全米レベルで活躍すると、志願者が増えレベルが上がる、という学校の思惑があるからです。

既に全米に名前が知られている大学は大学で、スポーツチームが活躍すると試合のチケットや大学のグッズなどが売れ、さらに収入が増えます。アスリートはまさに大学の広告塔。

下駄をはかせてもらえる理由は、これだけではありません。アメリカの大学はスポーツを本格的にやっている人が勉強の時間を取れないのは仕方のないことで、スポーツをやったうえである程度の成績さえあればなんとか卒業できる、と経験から分かっています。アスリートには個別の家庭教師をつけて対応してくれる大学も少なくありません。

反対にいうと、何も課外活動をしないで成績がいいのは当然のことで、合格する成績の基準が高くて当たり前だということです。あくまでアスリートに甘いのではなく、勉強時間に比例した成績の評価をしている、これがフェアーな見方だと思われています。