この記事に書いてある事
  • 昔からある縁故入学「レガシー」
  • 裏金を税金控除までしていた
  • ホフマンは司法引き ロックリンは反省せず

アメリカでは連日報道が止まらない大学入試スキャンダル。一般の家庭は「富裕層はそういうことをやってはいるだろうな」とうすうす思ってはいても(関係しているのは一般家庭にはあまり縁のない学費が高額な私立大学が主)、実際に750家族が関係していたとの報道辺りから、裏口入学そのものよりも、その手口に注目が集まり始めました。

昔からある縁故入学「レガシー」

アメリカの一般の人は大学入試スキャンダルの第一報を聞いて「お金持ちや有名人が大学に大金を寄付して子供を入学させたんだろう。私立大学ではレガシー入学は当たり前のこと。」ぐらいにしか思いませんでした。有名な例ではブッシュ元大統領親子。

ブッシュ一家
Source:https://en.wikipedia.org/

ブッシュ(父)元大統領は第二次世界大戦が始まってすぐ18歳の時に海軍に志願。今では考えられませんが、入隊してから最も若い海軍のパイロットの一人として終戦の1945年まで任務についていました(現在は軍隊のパイロットになるには大学卒業していることが条件)。

終戦後アイビーリグ校である名門のエール大学に入学。これは父親のプレスコット・ブッシュがエール大学の出身であることからレガシー入学であるといわれています(プレスコット・ブッシュはウォール街の投資銀行の役員を務めたあと、コネチカット州選出の上院議員に)。

ブッシュ(息子)元大統領もエール大学、その双子の娘の一人もエール大学(もう一人の娘は母親バーバラの母校である州立テキサス大学オースティン校)、とくれば世間は「多額の寄付金を払い続けてエール大学に子弟を送り込んでいる」典型的なレガシーの例であると理解し、そのことに疑問の余地さえ挟まないでしょう。

事実はどうであったのかどうか分かりませんが、いろいろな話を総合するとブッシュ(息子)大統領や双子の娘たちの若い時の素行はあまりいいものではなく、もともとの頭はどうであれとても勉強だけでエール大学に入学できたとは思えません。

よほど成績に問題がない限り、レガシーがあれば比較的簡単にアイビー校に入学できた時代でもありました。最近はニードベース(収入による)の返さなくてもいい奨学金や多額に出る学生ローンがあったり、海外から優秀な学生が応募してくるので、どんどん入学希望者が増えています。レガシーがあるからといって確実に入学できなくなってきているのです。

裏金を税金控除までしていた

それでは、今回の富裕層の親が逮捕された裏口入学とレガシーはどう違うのでしょうか?

以前は比較的簡単であったレガシーを使っての縁故入学。今ではアイビー校はレガシーがあっても3割程度の合格率で、いくら成績や共通テストの点数にげたをはかせてくれるとはいえ、あまりにかけ離れたものであれば入学は難しいでしょう。アメリカの大学は入るのも大変なら卒業するのも大変なので(アメリカの大学は入るのが難しいというのはまた別記事で)、寄付金の額だけで入学させるわけにはいきません。

成績や共通テストの点数が悪い富裕層の親が考え付いたのが今回逮捕される原因になった方法です。一つは不正をして共通テストの点数をあげる、もう一つは成績やテストの点数がレガシー枠よりもさらに低く設定されているアスリート枠を悪用することです。

テストの点数は替え玉を使ったりテストを監督する人にお金を払い点数を変えてもらう。アスリート枠の方はやってもないスポーツの履歴を作り大学側にお金を支払いアプローチ(親だけでなく大学のスポーツコーチも複数逮捕されています)。

これだけでも不正ですが、世間をあきれさせたのは、裏金はこのスキーム(策略)を仕切っていたウイリアム・シンガーが設立していた「Key Worldwide Foundation(キー・ワールドワイド財団)」という慈善団体に振り込ませていたことです。慈善団体であるためアメリカでは親が払った裏金は全額、税金控除されていました。

Key Worlwide Foundation
Source:https://www.thisisinsider.com/

お金を払い共通テストの不正、ウソのスポーツ履歴をでっちあげるまでは、単に入学者の処分で終わった可能性もあります。共通テストの一つSATやACTを実施しているのは非営利団体(SATの運営団体「College Board」は数十億円の利益を上げているので常に批判にさらされている)ではあっても日本の「独立行政法人 大学入試センター」のように政府の監視があるわけではないので、私的な団体と大学間で解決できたかもしれないからです。

おもしろいことに共通テストの点数操作には親は数百万円、アスリート枠の悪用は数千万円、何家族かは数億円払ったといわれています。この金額の差はいかに共通テストの点数を操作するのが簡単であったのかを表すものだと思います。

ここまでならFBIが動いていたのかどうかは分かりません。FBIが動いたのはチャリティー団体が富裕層の税金控除に使われた、ということは税金をごまかしていたからです。これは重大な犯罪。さらにシンガーの慈善団体は皮肉にも「教育機会に恵まれない子供たちのために」設立された団体で、集めたお金25億円以上は記載されていた寄付金の贈呈先のどこもお金を受け取っていないのです。

これによりマネーロンダリング、不正なお金もうけ、国に対する詐欺、司法妨害(何が司法妨害に当たるかの詳細はこれから出てくるものと思われます)。

ホフマンは司法引き ロックリンは反省せず

意外にもシンガーは逮捕された後すぐに罪を認めました。司法取引を示唆されて全てを解明するのに協力することになったのでしょうか。

『デスパレートな妻たち』のホフマンもすぐに司法取引に応じ、一番軽いとはいえそれでも4~10カ月の禁固刑と罰金200万円超で合意しました。そして同時に反省している旨の声明も発表。いろいろな人に迷惑をかけたこと、そして一切知らなかった娘に対する謝罪でした。アメリカは反省しているかどうかの態度を明確に見せることで刑期に影響が出るので、一番軽い4カ月を狙ってのことから出た言葉ではあったかもしれませんが、、、

フェリシティ・ホフマン 法廷
Source:https://www.bloomberg.com/

ただ、私は娘は一切知らなかったというのは疑問があります。詳細を読むと、わざわざ最寄りではないSATの会場での受験、そして本人が事前に受けた(実際のSATの点数がかなり予想できる)PSATとの点数との大幅な乖離があったのに、ほんとうに本人が何かおかしいと気付いていなかったのでしょうか?1020ぐらいの予想が1420に上がったのに、です。

他の逮捕者の子供の中には親が替え玉を使った例がいくつもありますが、実際に受けていないテストの点数を大学の願書に書くことになります。この人たちも「子供は知らなかった」と主張しており、にわかには信じられません。アメリカでは受けた共通テストの点数を受験者が知ることができ、それを願書に自己申告します。

富裕層はプロのカウンセラーを雇って願書を書くことはあっても、共通テストの点数は本人がカウンセラーに知らせる必要があるのです(自己申告した点数は後日テスト団体から正式に大学側に送られる証明書で確認)。学校によっては願書締め切り後の日程でテストを受けても(共通テストは複数回受けられる)、後日報告ができることもありますが、ほとんどの場合願書提出までに点数が出ています。

私は親が「子供は知らなかった」と通すことで、もしかすると大学側が生徒を退学させないかもしれない、という淡い期待があったのでは、と疑っています。実際にロリ・ロックリンの娘はすぐに退学になったと報道があってしばらくして、実はまだ在学しているという報道も。大学側はプライバシーの観点から答える義務はないし、大口寄付金をする家庭の生徒は留めておきたい、というのが本音でしょう。

特にロックリンの娘の在学する南カリフォルニア大学は、今でこそかなりレベルが高くなり一流大学と言われるようになりましたが、ひと昔前までは大学名 University of Southern California (USC)をもじって「University of Spoiled Children(spoiled:過度に甘やかされた)」と揶揄されているぐらい、親がお金を積んで入る学校という認識でした。

一回目の公判ですぐに司法取引に応じた親もいればそうでない親もいました。ロリ・ロックリンの場合は後者で、一部の報道でロックリンは「自分はどの親でももしできるならやっていたことをしただけで、モラルは問われても犯罪だとは思わない」と言っているそうで、今のところ法廷で戦うようです。

ロリ・ロックリン 法廷
Source:http://time.com/

娘はいわゆるインフルエンサーといわれる学生セレブで、自ら「パーティーとか行ってみたいけど、皆さんご存じのように大学はどうでもいい」と公言するぐらいで、親子どっちもどっち。そういう育て方、育ち方をしたのでしょう。